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2018.6.9
時の流れ

建築は、完成してから時間が流れ出す。私が多く携わっている医療福祉の建築も同様です。先週、十数年前に設計した愛媛県宇和島市にある特別養護老人ホーム「あさひ苑」にうかがった。設計のコンセプトは、「消える建築」。意味は、建築が存在を主張するのではなく、建築に係る全ての人、植物、動物が主人公であるということ。建築は自然と同化することが一番だという思いからです。竣工してから訪れたのは4度目、その都度、時間の経過を感じることができます。設計当初、ものすごい荒地だった敷地、岩だらけの地面、昔は農地だったとのこと。四国、特に愛媛県は平地の少ない地域で、段畑という傾斜地を階段状に削って猫の額ほどの農地にジャガイモ等を植えている。そのような土地柄、敷地は珍しく平地に近い状態が保たれている。農地としては水はけが悪く、水位も高い。海も近いため、植えられる農作物は限定され、結果、荒地として残ったと思われます。設計にあたり極力自然の状態、つまり土地の形状、風景を残すことに努力しました。敷地は北側の海に向かって緩やかに傾斜、建築は傾斜を利用し、這うように建設しています。植栽は、東京の造園家で、地域の自然の植生を活かしながら、雑木林のような庭園を作ることで有名な、山本氏。私と彼は、設計の最初に大いに話し合い、お互いを尊重しながら設計を進めました。結果十数年の歳月を経て、当初の設計コンセプト「消える建築」が実現しました。詳細については、後日アップします。 茂木聡