ホーム > コラム > 2020年8月

Column

 コラム

2020.8.3

老人福祉法には、実に様々な施設が定義されています。十数種類。専門家でもない限りその違いを説明することは難しいと思います。まして、一般の方が違いを理解することは、至難の業でしょう。通常、「老人施設」といわれる建築は、時代の変遷、法的根拠により、細分化されてきました。今回弊社が設計し、竣工した「特別養護老人ホーム共生の里」は、老人施設で言えば、一番重度な方々が入居され、介護保険制度のもと、手厚い保護、ケアを受けることができる施設です。昔は老人施設に入居というと、一種の差別感がありました。2000年、秋田県鷹巣町当時町長だった、岩川氏が入居させることが、ステイタスになる施設を作りたいとの考えから、故外山義京大教授と弊社が組んで作った「ケアタウンたかのす」は、新時代の幕開けになったと自負しています。全室個室が当たり前になった現在ですが、建築的にユニットケアの概念を構築したと考えています。当時考えたユニットは、6~7人が1ブランチで、それが3っつくっついて一つのユニットを構成する考え方でした。介護保険で1ユニット10人(最近では若干多くなってもOK)、夜間は2ユニットで一グループという規則が作られたせいで、ユニットケアが融通の利かないものに思われるようになってしまいました。実際、この規定は、運用上非常に難く、建築設計する立場からも、無理があるように思います、現在は介護度3以上が入居条件になったため、ますますむずかしく、意味のない空間造りになっている部分もあります。一時ユニットケアが良いと言われ、私自身も数十件設計してきましたが、多床室回帰の動きもあります。基本は、利用者の尊厳をいかに守るかであり、ユニット、個室論ではなく、利用者本位の空間を作ることが一番です。北欧では、かなり昔、脱施設が議論され、末期の方の最後の受け皿としてナーシングホームが位置付けられています。「クリッパンの老人たち」(外山義著)を読むと、克明に記されています。日本の福祉計画は、限界にきていると感じます。今一度、全体を通して、老人施設とは何か、考える時だと思います。 茂木聡