Column
コラム
2025.6.12
私が建築設計を初めて手掛けたのは、東京都多摩にある、島田療育園(現島田療育センター)の改修工事でした。大学院を出たばかりの何もわからない中就職した会社は、医療、福祉を得意とする事務所で、オーナーは、日本初の重度心身障害者を扱う島田療育園を設計した人物でした。入社してすぐ、島田療育園の改修設計をせよとの指示。約半年間、毎日のように、施設に通いました。障がい者に対する偏見がすごい時代でしたが、自然に仕事が進められた記憶があります。いろいろ施設の方に教えていただきながら、何とか設計をこなしました。その後、数十年設計活動を行ってきましたが、島田療育園で学んだことは、忘れたことはありません。様々な機会に、人との出会いの大切さ、面白さを痛感することがあります。今回も、設計中の建物の施設長から、「島田療育園を設計したんだったね」と言われ、プリントと本を預かりました。「おばこ天使」藤原陽子著、と施設長ご自身が雑誌に書かれた「重症心身障害児の父・小林提樹」(長野・日赤・秋田)の写しでした。両書とも、島田療育園が舞台です。会議の前に突然お話しいただいたため、びっくりしたのと同時に、私の中で時間が遠い過去にさかのぼり、涙が出てしまいました。施設長の温かいお心遣いへの感謝と、また素晴らしい出会いがあったことへの嬉しさを思った瞬間でした。 茂木聡
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