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 コラム

2017.12.16

東京都立川市に設計した地域密着型特別養護老人ホーム「高松の家」竣工2年検査を行いました。工事契約で記載された内容です。1年検査は、多数の問題点があり、かなりの改善、及び修理が行われました。今回は2年目で、思いのほか、指摘事項は少なかったように思います。私が一番気にするのは使われ方。設計意図と違う使われ方をしていると、何故かと考えさせられます。今の福祉業界は人で不足。スタッフの入れ替わりが多い業界です。法人幹部とも話をしましたが、なかなか人が集まらないとのこと。そのためか、設計当初協議したこと、目指したことがうまく機能していない部分も見受けられました。私は福祉施設を設計する際は、利用者を一番に考えます。そのため、スタッフからのクレームもたまに聞きます。働きやすいことと利用者の居心地が良いということは、相反することは、多くあります。今回の施設の場合は、床は全面的に特殊畳(福祉施設用)を敷いています。床座ができるように、転んでも怪我をしにくいように、自宅の延長と思えるように。でもスタッフの一部からは、掃除がしにくいとの意見も。福祉施設は、利用者によって育てられると私は考えています。理想論といわれればそれまでなのですが、少しでも良い療養環境は何か。日々考えさせられます。  茂木聡

2017.12.3

発達障害というと、一般の方々は、自分とは無縁と考えられる方が多いでしょう。しかし、現在、小学校へ入学する前に、病院を受信して発達障害と診断される子供たちは、同年齢の5%、小学校の先生方が、入学してきた子供たちを見て感じている人数は10%となっています。発達障害は重度であれば、すぐわかりますが、軽度の場合、変わり者という扱いになり、実際の数字はわかりません。以前、厚生労働省が出したコメントでは、約20%ではというものもありました。5人に1人です。重度のかたがたは、あまり社会に出る機会がすくないため、身近に感じることはすくないかもしれません。また、発達障害の症状がわからないことも多くあります。私は建築の設計が専門ですが、障害者施設の設計を数多く手がけてきた経験から、一般に生活している方々の恐らくかなりの方々が発達障害と判断されるように思います。有名な例では、アインシュタインなどが挙げられます。病気の診断は、多い少ないで、多いほうが正常、すくないほうが病気です。つまり、発達障害と分けることの意味がすでにと思うのです。仕事上、たくさんの方にあいます。ふとしたとき、恐らく発達障害だろうなと思うことが多くあります。世の中、もう少しルーズに考えたほうが良いのではないでしょうか。ものを、右左に分けるのではなく、もっと大きな輪で捕らえる。それにより、もっと住みやすい場所が生まれるのでは、そして、もっとたくさんの才能が世の中に満ち溢れるのではないだろうかと考えさせられます。 茂木聡

2017.11.29

日本における福祉施設は、歴史から来る暗いイメージが付きまといます。先日wowowで見た「92歳ののパリジェンヌ」は、日本とヨーロッパの意識の違いをまざまざと感じさせられました。映画は、年老いた老女がひとりで生活しています。定期的にヘルパーに援助してもらい、子供たちとも時々あいながら。しかし、自分で今まで一人でできたことが、できなくなってくる。そして尊厳死を考えるというストーリーです。日本では、この状態までひとりで暮らすことは、めったにありません。私が知っている老人施設に入居されているかたがたは、もっと元気な方が多くいらっしゃいます。北欧では、ギリギリまでヘルパーの援助で一人で暮らし、それができなくなると施設に入るのが一般的なようです。しかし、故外山義京大教授は、スウェーデンで研究を続け、施設に入所したとたん、人間的尊厳が失われていくことを論文で発表されています。その経緯は「クリッパンの老人たち」で日本でも発表されています。お年寄りの施設への入所と一人暮らし。日本の福祉制度では難しい面もあります。家族制度の考え方の違いもあります。しかし、そろそろ本腰を入れて考えなければいけない時代になってきていると考えます。福祉の問題は、国や行政の問題ではありません。我々自身の問題です。考える機会、話し合う機会がなかなか無いのが現状ですが、その機会を作っていくことも我々に課せられた使命と思います。  茂木 聡

2017.11.27

世界的建築家「安藤忠雄」展を国立新美術館で見てきた。現役の建築家を大々的に国立美術館で展示するのは珍しい試み。見学に行って驚いたのは、若い人たちがものすごい人数見に来ていること。長蛇の列。どの作品も見るのが大変。世界的絵画展に来ているような錯覚。私が見たかったのは、原寸大に作られた教会。確認申請まで出して、屋外に作った教会。雑誌の写真では何度か見ているが、本物は見ることができないため、特別に安藤氏が作ったという。原寸模型ではなく、本物をコンクリート打ち放しで作った。空間体験としては、思ったより小さい感じ。よくできている。しかし、建築は使われて初めて価値が出るもの、見ていて、素晴らしいのだが空間の感触がやはりレプリカと感じさせる。しかし、これだけ人を集めたるのだから、建築も捨てたものではない。 (茂木聡)

2017.11.15

設計プロポーザルコンペが、ここ数ヶ月、各行政から多く出された。設計者としてはありがたいことではあるが、参加条件が厳しいこと、審査員が公表されていないことも多く、審査内容が密室化していて、結果に疑問を感じることも多い。私の会社は、開設して8年のため、事務所の実績は少ない。そのため、参加条件を満たすことは難しい。個人的には十分な実績はあるのだけれど。私自身、プロポーザルコンペの審査員をやることもあり、その場合は、審査の目的、方法を明確に参加者にわかるようにしている。審査員が匿名だと、何を求めているか、提案内容を考える時、悩む。審査方法で多く採用されているのが、実績点、設計見積価格、それに提案。見積価格が重視されていることもあり、だったら入札にすればと思うこともある。何事も勝たなければ意味はない。しかし、コンペに参加することで、頭の体操になることも事実で、大いに勉強になる。感謝しつつも、勝てないことに愚痴もでる。 茂木聡